今年のジュネーブおよびバーゼルを、それらによる誌面作りがひと段落した今、あらためて振り返ってみました。最も印象的だったのは「魅力的な価格でモノもいい」時計が非常に多かった点。
普通の感覚で考えて現実的な100万円以下、さらに言えば50万円前後の良作が極めて豊富でした。現地取材したジャーナリスト諸氏も異口同音に仰ってましたが、それがコストダウンを感じさせる類ではなく、「えっ! そんなに安いの?」と思わず確認してしまうほど優れたコストパフォーマンスだったのは、今年の大きなトピックだと思います。ここ数年、複合的な理由から「いい時計は高くて当たり前」的な、富裕層は良かれども一般層・入門層には厳しい流れがありましたが、今年はその潮目が変わってユーザーに優しい流れとなりました。
また、他社との戦略カブリが余儀なくされる流行やら技術力誇示やらはさておいて、多くのブランドが自らのストロングポイントを再検証し、それを以ってごくシンプルに勝負していたことも印象的でした。ざっくり言うと①歴史あるブランドは過去のアーカイブを紐解いて魅力的な復刻モデルを出していた②新進ブランドは革新的なデザインや素材使いで自らの存在意義を訴求していた③そもそもの人気モデルを擁しているブランドはそれの拡充でユーザーの選択肢を増やしていた、と思います。各ブランドの強みが際立つことでそれぞれのポジショニングがより明確になりましたし、結果的に(私も含めた)ユーザーの視界がクリアになりました。
以上はもちろん、時計業界そして各ブランドの戦略ではあるのですが、結果的にユーザーが選びやすく買いやすくなっているのですから、個人的には大いに歓迎すべき潮流だと捉えています。決して煽るわけではありませんが、近年稀に見る“買いの好機”と言っていいでしょう。
以上を踏まえ、私が今回気になった3モデルを①②③の順に従って紹介します。恐らくすべて、多くの媒体が取り上げて多くの支持者を生むと思いますが、これらのどれもが今年の潮流を象徴するアイコニックなモデルばかりです。