汗だくだった2019年ジュネーブサロン
2019年、今年のジュネーブサロンは汗が止まらなかった。1月のスイスにしては暖かく、日本と変わらないくらいの気温にして、元来暑がりなのに厚着をし過ぎたせいもある。でも本当の理由は、物欲をくすぐられる新作があまりに多く、時間ギリギリまで時計を眺めては次のアポイントへとサロン内のブースを急いでいたからに違いないのだ。
さて、連載初回ということで私が何者なのか、改めて自己紹介をさせてほしい。ウオッチナビという時計専門誌の編集長をさせてもらっているもので、記念すべきファースト高級機械式時計をオオミヤさんで購入した根っからのオオミヤストだ。代表の出水さんとは何だか趣味も被るので、こないだも腕元で輝いていたパネライのチェラミカにグッときてしまった。次はパネライかなあ、出水さん?(笑)
僕は、取材と称して毎回買うつもりで時計を見させてもらっている。いまの気分は、薄いドレスウオッチかスポーティなステンレス(か、黒いパネライ)。そんな僕の心を見抜いたように、今回のSIHHではたくさんの新作が現れては買い物リスト入りした(笑)。なかでも特に刺さった時計をグッと絞って4本ご紹介してみたい
ドレスウオッチ部門
まず、薄いドレスウオッチ部門の1位(?) に輝いたのがカルティエのサントス デュモン。通常の倍という約6年の電池寿命を持つクオーツを採用し、メゾンのデザインコードを堅持しながら極薄ケースに仕上げた秀作だ。SSなら30万円台前半というのは高いバリュー・フォー・マネーを誇る。
ただ、カルティエがそこまで頑張ってくれたのなら、普段手が出にくいコンビや金無垢ケースにトライしてみたい。また、ドレスウオッチならやはりゴールドがいい、というのも大きな理由だ。使い道はビシッとジャケットを着込んで出掛けるここぞという集まりに限定しても、いいかもしれない。
もう1本はジャガー・ルクルトのレベルソ・トリビュートに追加された青と赤のダイアルを推薦。
植字インデックスとサンレイ仕上げのダイアルが何とも上質なトリビュートだが、この深いブルーと、レベルソ初となる鮮烈な赤にはやられてしまった。赤というか“ルージュ”とも呼ぶべきセクシーな色だ。ストラップもこれらに合わせてネイビーカラーとバーガンディカラーの仕様。ややクラシカルな雰囲気もいまの気分に合っている。
レベルソというとデュオを第一候補にする人も多いだろうが、十分にキャラ立ちした新色ならばモノフェイスくらいの個性がちょうどいい塩梅ではないだろうか。
スポーティー部門
さて、スポーティなステンレス部門ではダントツに良かったのがIWCのパイロット・ウォッチ スピットファイア。
パイロットの3針といえばマークシリーズだろう、というご意見が多数と思うが、今回のスピットファイアはかなりイイ。これまでこの手の3針は、トップガンの呼称をされることもあった、バリバリミリタリーなモデル。ブラックセラミックのケースや、クロノグラフのスピットファイアであればスレートグレー文字盤というのがお決まりのデザインだった。
しかしながら、この新作はどちらかというとマークシリーズ寄りの雰囲気を醸している。時分針や12時位置の三角マークにはベージュの夜光が塗布され、カーキのファブリックストラップとともに“ほんのり”ミリタリー感を盛り上げているのが良バランス。
いまの時代、あまりにゴリゴリ本格派なデザインは、ややコスプレチックになってしまいがちなので、このくらいのミリタリーテイストがちょうど良く、使う場面も選ばないだろう。100%マニュファクチュールムーブというのも価値が高い。
ラストの1本は、ロジェ・デュブイのエクスカリバー ピレリ スパイダー オートマティック スケルトン ウラカン。……。もはやSSでもないし、かな~りとがった感じだけどご勘弁を。何せカッコいいのだ。
これまで、この“スパイダー”は800万円アッパーのものしか存在しておらず、高嶺の花すぎる時計だった。それが今回“よりアクセスしやすいように”と目に見えないパーツの装飾を省き、ジュネーブ・シールを取らないことを選択。500万円台でロジェのスケルトンが堪能できるという事態になったのだ。
それでも高価なことに違いはないけれど、総生産本数が3000とか4000とかいわれるこのブランドの時計を手にできると思えば、、、いや、買えないけどついつい悩んでします。ちなみに、手を無造作においたときに、時計の心臓部がベストな姿勢を保てるよう、テンプがやや手前に傾いているのはうんちくポイント。外装だけでないこだわりが見えるのはとても嬉しい。